旅路の器 明代の青花杯・北京
旅の仕事で出かける時、気になる器に出会うと、つい買い求めてしまう。特にやきもの。
中国の陶磁器がとても好きなのだが、そのきっかけになったやきものがこれ。取材の仕事で中国陶磁紀行をした時に見つけた小さな杯。明代後期の青花。青花とは染め付けを表す中国語だ。
中国陶磁器の産地を訪ねて、あちこち取材に行った時期がある。たぶんもう15年以上前になる。下調べで中国陶磁の本をたくさん読んだ。また、上海や杭州などの書店で陶磁の本を見つけては、中国語を読めないのに買って来た。さいわい漢字がわかるから、陶磁器の専門用語を覚えるのにとても役立った。北京の国立博物館(故宮じゃないほう)、景徳鎮の博物館、杭州の博物館、また、河北省、銀川など、地方に行った時にはなるべく陶磁器の博物館を訪れて本物の古陶磁を見まくった。定窯、磁州窯、景徳鎮、汝窯、越州窯、龍泉窯、南宋官窯、唐三彩、などなど。
そのせいか、北京の有名な骨董市場、藩家園に行った時、比較的新しい清代のもの以外、おびただしい数のニセモノが売られていることがよくわかった。でも、1つ1つよく見ると、たまに本物が混ざっている。この杯は藩家園で見つけたもの。明代の歴代民窯青花の本を持っていたので、杯の形、質感、図案、筆遣いなどを見て、きっと明代後期のものかなと思い、買ってみた。ふちが少し欠けているので売り主と交渉してけっこう安くしてもらった記憶がある。
家に帰って本を見たら、万歴帝の時代のものに似ているものがあったので嬉しかった。中国明代のやきものは、皇帝が変わるとともに官窯も民窯も、やきものの作風が変わるところが面白い。特に明代後期の民窯は、やきもの職人が筆でささっと描いたような、のびやかな風合いが気に入っている。本を見ていくと、絵柄も時代ごとの特徴や傾向があることに気がつく。
私が買ったものも本物と100%は断言できないけれど、質感、図案、風合いが気に行っているので良しとしている。もう何年も北京に行っていないけれど、藩家園は今も健在なのだろうか。
旅先で出会ったたくさんの器をiphoneで撮って、ぽつんぽつんと記録していくことにする。